神社やお寺で見かける狛犬は、いつだって左右一対。
それは2体の狛犬が「阿吽の呼吸」で神聖な場所を守っているからです。
実は、狛犬の置き方には、左右の決まりがあります。
・神仏から見て右側:口を閉じた「吽形」
左優位とは、天子から見た左側が上位、右側が下位という思想。
この天子を神仏に置き換えて、狛犬は左右の位置が決まりました。
神仏から見て左が上位
神仏から見て右が下位
驚くことに、同じように見える2体の狛犬には絶対的な格差があるんです。
この記事では、狛犬の阿吽は左右の位置が決まっている理由をわかりやすく解説しています。
さらに、2体の狛犬に格差が生まれた事情もお伝えしています。
ぜひ最後までお楽しみください。
狛犬は左右の置き方に決まりがある理由
口の形で阿吽を表わす、左右一対の狛犬。
神仏から見て左側が口を開いた「阿形」、右側が口を閉じた「吽形」です。
どうして狛犬には左右の置き方に決まりがあるのか、その秘密に迫ります。
そもそも狛犬は「獅子」と「狛犬」
現在では左右一対で狛犬。
しかし狛犬が登場した平安時代は、「獅子」と「狛犬」という別々の霊獣でした。
もともとの狛犬は天皇の左右において、悪いものを払う魔除けのための調度品がはじまり。
後に神や仏のいる神聖な場所を守るために、神社やお寺に置かれるようになったのです。
狛犬 | 獅子 | |
神仏から見た位置 | 右側 | 左側 |
口の形 | 吽形 (閉じている) | 阿形 (開いている) |
角の有無 | あり | なし |
そのうち狛犬と獅子の違いがなくなり、現在のような左右一対で狛犬という形になっていきました。
実は「獅子」と「狛犬」の左右の位置は、偶然のものではありません。
なぜこのようなルールができたか、次に詳しく紹介します。
「左右」という言葉が表す格差
よくよく「左右」という言葉を見てみると、左が先で右が後です。
左優位とは、次のような思想です。
南向きに座っている天子から見て、左側(東)が上位、右側(西)が下位
つまり、神社や寺院においては、神や仏から見て左(参拝者からは右)にあるものが上位なのです。
上位 | 下位 | |
神仏から見た位置 | 左側 | 右側 |
参拝者から見た位置 | 右側 | 左側 |
獅子と狛犬の位置 | 獅子 | 狛犬 |
つまり神や仏から見ると獅子は左側で、狛犬は右側です。
なぜ獅子が狛犬より格上と考えられたのでしょうか?
獅子が狛犬より格上だった理由
なぜ後にいなくなる「獅子」の存在の方が、「狛犬」よりも格上だったのか?
もともと中国では、左右一対の「獅子」が邪気払いの霊獣として置かれていました。
しかし日本では左右一対の獅子の片方を、別の霊獣「狛犬」として変えたのです。
実は「狛犬」は日本が生み出したオリジナルの霊獣で、中国には存在しません。
狛犬の「狛」には、「異国のもの」という意味があります。
こうやって獅子は「中国の霊獣」、狛犬は「中国の異国の獣」とされ区別されました。
その当時の中華思想は、中国のものは上位、異国のものは下位という考え。
この考えを受けた日本人は、中国生まれの獅子を上位、異国生まれの狛犬は下位としたのです。
だから獅子を神から見て左側、狛犬を右側に置いたという訳でした。
狛犬の気の遠くなるような起源については以下の記事をご覧ください。
狛犬は口の形で阿吽を表わす!なぜならお寺の仁王像をまねしたから
【獅子には金箔、狛犬には銀箔!装飾にも格差があった事実】
石川県・白山比咩神社所蔵の「白山三所権現図」には、獅子と狛犬の立場の違いがよく表れています。
宮中の御帳の前に金属製の獅子と狛犬が調度品として置かれている様子です。
しかも当時は、獅子には金箔、狛犬には銀箔で装飾する決まりまでありました。
特別展 #いしかわの神々 より、展示替えのお知らせです。白山比咩神社の「白山三社神像」(重文)は本日(5/17金)までの公開。鮮やかな彩色と精緻な筆遣いで白山の神々を描く、中世垂迹画の傑作です。同じく白山比咩神社所蔵の「黒漆螺鈿鞍」(重文)も本日までですので、お見逃しなく。 pic.twitter.com/hdnXzq9EWL
— 石川県立歴史博物館 (@ishireki) May 17, 2019
獅子と狛犬には絶対的な格差があることがわかります。
阿吽の左右はどうして生まれた?
神や仏から見て左側が上位、右側が下位であることはわかりました。
さらには、中国の偉大なる霊獣「獅子」が、異国の犬である「狛犬」より格上であることもわかりました。
しかし、なぜに獅子が口を開けた「阿形」で、狛犬が口を閉じた「吽形」なのでしょうか?
狛犬が阿吽なのは仁王像のまね
阿吽という言葉は、そもそも仏教用語です。
狛犬が誕生するより前から、お寺には左右一対の仁王像が置いてありました。
獅子と狛犬は、この仁王像が口の形で「阿吽」を表すのを真似したと考えられています。
だから「阿吽」の左右の位置も、そのまま仁王像と同じになったのです。
獅子 | 狛犬 | |
神仏からから見た位置 | 左側 | 右側 |
仁王像の口の形 | 阿形 | 吽形 |
でも、仁王像には時代によって例外もあり、左右が逆の場合もあります。
ややこしいですね。
阿吽はサンスクリット語の音に由来
阿吽はそもそも仏教用語。
古代インドのサンスクリット語に由来します。
阿はサンスクリット語の最初の文字
口を開いて出す最初の音「a」
吽はサンスクリット語の最後の文字
口を閉じて出す最後の音「hum」
このサンスクリット語の最初と最後の2つの文字の音に、漢字を当てはめてできたのが「阿吽」です。
このことから、阿吽は「すべての物の始まりと終わり」を意味します。
また「阿」は太陽が登る東側、「吽」は太陽が沈む西側とも解釈されます。
前に説明した、中国の左優位の思想に繋がるものがありますね。
【「阿吽の呼吸」は仁王像の様子から生まれた言葉】
「阿吽の呼吸」という言葉は、二人の仁王像が息を合わせて仏を守る様子から生まれました。
二人以上が一緒に何かをする時、互いの気持がぴったり合うこと。
出典:三省堂 必携故事ことわざ辞典より
狛犬も左右一対で力を合わせて神聖な場所を守っています。
「阿吽の呼吸」については、別の記事で詳しく説明しています。どうぞご覧ください。
阿吽の呼吸の意味と由来を徹底解説!もとは仏教用語で深イイ言葉
口の形で阿吽を表し、神聖な場所を守る左右一対の狛犬。
しかし、もとは中国の霊獣である「獅子」と、異国の犬である「狛犬」という格差がありました。
獅子の方が圧倒的に格上だったのに、いまでは「狛犬」がその地位を欲しいままにしています。
それは江戸時代に狛犬を見たことがない石工が、おのおの自由に作ったことが始まりです。
伝言ゲームで広まった「狛犬」には、いつしか角がなくなりました。
見た目は左右一対の「獅子」なのに、残った名前は「狛犬」だった。
こんな下克上は「獅子」だって夢にも思わなかったはずです。
神社やお寺で狛犬に出会ったときは、格差を乗り越えた彼らの功績を称えましょう。
【あわせて読みたい!】
本来の狛犬には角があった!角がなくなるまでの歴史をわかりやすく解説