大仏の髪型は、パンチパーマではありません。
大仏の頭にある豆粒のような1つ1つは、髪の毛が右巻きに巻いたもの。
形が法螺貝のようなので、螺髪と呼ばれます。
しかも、この螺髪は如来像にしか見られない髪型。
如来とは釈迦が悟りを開いた後の姿。
この記事では、パンチパーマのように見える大仏の髪型、螺髪について解説しています。
また普通の人にはあり得ない、大仏の気になる体の特徴についてもご説明しましょう。
どうぞ最後までお楽しみください。
大仏の髪型はパンチパーマではなく螺髪
大仏を見た瞬間、多くの人の頭によぎる「もしかして、パンチパーマ?」という疑い。
このインパクトのある髪型は、「螺髪」と言います。
一体、何がどうしたらツブツブの髪型になるというのでしょう。
この謎だらけの髪型「螺髪」のディープな世界をご堪能ください。
螺髪は悟りを得た仏の髪型
大仏の頭についている豆粒1つ1つは、1本の髪の毛が右巻きに巻いたもの。
形が法螺貝のようなので、螺髪と呼ばれます。
しかし、この一度見たら忘れらない印象的な髪型「螺髪」・・・
全ての仏像に見られるものではありません。
螺髪は、如来だけに見られる髪型なのです。
如来とは、悟りを開いた釈迦のこと。
つまりは仏教が目指すゴールを体現した存在なのです。
でも逆に、悟っていない仏像ってあるんでしょうか?
髪型でわかる仏像社会の階級
お寺にいらっしゃる様々な仏像。
よく見ると、螺髪ではない仏像もあります。
実は仏像には階級があり、大きく分けると5つあります。
この5つの階級のトップは、螺髪が目印の如来です。
それ以下の階級は、どれもみな修行中の身。
悟りを得ていないので、髪型が螺髪ではありません。
仏の種類 | どんな人 | 髪型 |
如来 | 悟りを開いた釈迦 | 螺髪 |
菩薩 | 釈迦が悟りを開く前の姿 | 結んでいる・丸坊主 |
明王 | 如来の化身 | 三つ編み・逆立った髪 |
天部 | インドのヒンドゥー教の神 | 結っている |
羅漢 高僧 | 修行中の人間 | 丸坊主 |
如来:修行をして悟りを得たときの釈迦の姿を表す。
菩薩:悟りを開く前、インドの貴族だったときの釈迦の姿。
明王:如来の化身。怒った顔で炎を背負い、仏の教えに従わない人をしかる。
天部:インドのヒンドゥー教の神々が仏教を守る神に変化したもの。
羅漢・高僧:羅漢とは釈迦の優秀な弟子。高僧は仏教の普及に努めた僧侶。
たとえ仏像になって拝まれていても、意外にも悟った存在ではありません。
螺髪は最高位の仏、如来だけに与えられた悟りのシンボルです。
螺髪は釈迦の能力からデザイン
そもそも大仏とは一体何者でしょうか?
釈迦には32個の優れた身体的な特徴がありました。
それは「如来三十二相」と言われ、この特徴をもとに如来像は作られています。
しかし全てが忠実に表されているわけではありません。
特別に目につきやすい特徴のみピックアップされています。
その中の1つ「毛上向相」こそ、螺髪を意味しています。
毛上向相:体の全ての毛が上になびき、右に巻いている。
しかし、なぜに右巻きなんでしょうか?
螺髪の右巻きは清浄を表す
螺髪が右巻きなのは、右を清浄とする考え方があるからです。
仏教の考えでは、右がキレイ(清浄)で左がキタナイ(不浄)とされています。
だから仏教発祥の国インドでは、次のような意味付けで左右の手を使い分けます。
左手 | 右手 | |
状態 | 汚ない | 清潔 |
使い方 | トイレでお尻を拭く | 食事をする |
心の状態 | 欲にまみれた心 | 清らかな仏の心 |
インド人は右手を使って食事をし、左手でトイレの後にお尻を洗います。
右手は人間本来が生まれ持つ、仏様のような清らかな心を表しています。
左手は色んな欲や苦しみにまみれた汚れた心を表しています。
ちなみに右手を左手を合わせる「合掌」は、右手の清らかな心で左手の汚れた心を整えること。
だから手と手を合わせると、自然と感謝の気持ちが湧いてくるのです。
【鎌倉の大仏はなぜか螺髪が左巻き】
螺髪は右巻きがルールですが、例外もあります。
頭の悪い人のことを「左巻きだ」と表現するのは、螺髪の右巻きに対して逆であることからです。
わざわざ鎌倉の大仏を左巻きの螺髪にした目的は今だにわかっていません。
パンチパーマの由来は螺髪ではなくアフロ
大仏の髪型がパンチパーマではないのはわかりました。
でも、パンチパーマは大仏をヒントにできた髪型なのでは??
パンチパーマは北九州は小倉の理容院、「ヘアサロン永沼」の故・永沼重己さんが生み出した髪形。
大仏ではなく、黒人のアフロヘアをヒントに生まれたとのこと。
先細のヘアアイロンで、一人のお客さんにつき700回も髪を巻く根気がいる髪型でした。
この技術を永沼さんが理容業界の講習会で発表したことで、パンチパーマは全国的に広まったのです。
パンチパーマの由来は大仏ではありません。
【悟りも行きすぎるとパンチからアフロ】
悟りを得た如来のみに許された、見た目はパンチパーマの螺髪。
しかし悟りが行きすぎると、見た目がパンチパーマからアフロヘアになってしまうことも。
【奈良・東大寺/五劫思惟阿弥陀如来(鎌倉)】“じゅげむじゅげむ、ごこうのすりきれ”等に代表されるよう劫とは永い時間を示す単位。大願を成就すべく五刧という永い間、剃髪せずに衆生を救うため思惟した結果このような髪型になった。俗称アフロ仏 pic.twitter.com/P4Y7bl5pY8
— 美しい日本の仏像 (@j_butsuzo) March 10, 2021
こちらのアフロヘアならぬ、大きな螺髪ヘアは五劫思惟阿弥陀如来像。
それは阿弥陀が如来になる前、法蔵菩薩であったときのことです。
人々を救うため五劫という長い時間、ひたすら思案していました。
ちなみに「劫」とは恐ろしく長い時間を表す単位で、一劫は43億2000万年です。
この間に長く伸びた髪が螺髪になると、アフロヘアになりました。
螺髪が誕生するまでの歴史
大仏に見られるパンチパーマのような螺髪。
実は仏像制作が始まったころにはありませんでした。
こんなにもインパクトのある「螺髪」がどのように誕生したかを解説しましょう。
仏像はルール違反でできたもの
仏像は釈迦が亡くなってから約600年後に作られ始めます。
その理由は、釈迦は自分が死んだ後に仏像など作ることを許さなかったからです。
これからは仏法と自分自身だけを拠り所にしなさい
しかし人々の釈迦への思いは募り、徐々にルール違反を始めます。
最初は仏像ではなく、釈迦の遺骨が収められたストューバと呼ばれる円形の塔を拝みました。
次に仏教が盛んになるにつれ、釈迦の生涯を表したレリーフを作りました。
そしてついには、作ってはならないと言われていた「禁断の仏像」にまで及んだのです。
でも、初期の仏像には螺髪はありませんでした。
仏像製作の始まりはガンダーラ
東京国立博物館東洋館、紀元2世紀のガンダーラ仏像。インド周辺、イケメン観が1900年くらい変わってないっぽい。 pic.twitter.com/jRAou6pSmN
— 森 勇一 (@ymori117) November 17, 2018
仏像の製作が始まったのは、釈迦が死んで約600年ほどの1世紀のガンダーラ地方。
当時のガンダーラはギリシャ文化の影響を強く受けていました。
だから作られた釈迦如来はギリシャ彫刻そのもの!
しかしガンダーラ仏は螺髪ではありません。
波打った髪の毛を頭上でまとめたお団子ヘアでした。
ではいつ、どこで螺髪は生まれたのでしょう?
巻き貝ヘアの始まりはマトュラー仏
ときはガンダーラ仏とほぼ同じ1世紀ごろです。
インド中部のマトュラーでは、土着の文化をもとにした仏像が作られ始めます。
マトュラー仏の特徴は、結い上げた髪が頭の上で巻き貝のようになっていました。
さらに3世紀になると、インド人特有の縮れ毛と巻き貝デザインのコラボに成功。
現在の螺髪の原型が生まれたのです。
グプタ朝時代のサールナート様式の仏像。5世紀。 pic.twitter.com/Vt46miqFL3
— saitok (@kenjimmtmr) January 13, 2019
こちらは4世紀に最盛期を迎えた古代インドの王朝「グプタ朝」時代に制作された仏像。
結い上げた髪が、見事な螺髪としてデザインされています。
しかし螺髪以外にも、大仏の体には不思議がいっぱい。
次の大仏の体の気になる謎を解明します。
他にも気にになる大仏のアレコレ
大仏を見ていると、螺髪以外に超人的な特徴があります。
頭の上のお椀のような盛り上がり、おでこの大きなイボはかなり目を引きます。
実はこれも先に説明した、釈迦の身体的な特徴32個を表した「如来三十二相」なのです。
さらには、釈迦の体には細かい特徴が80個もあり、合わせて「三十二相八十種好」と呼ばれています。
頭のてっぺんの膨らみは「お肉」
頭のてっぺんにある、お椀状の膨らみは髪の毛ではありません。
これも螺髪と同じく、悟りを得た如来像だけに見られる特徴です。
頂髻相:頭上の肉が隆起している。
この肉が盛り上がった部分は、肉髻と呼ばれます。
決して髪をお団子に結っているわけではありません。
偉大なる悟りの知恵を持つ如来は脳みその容量も大きいということなのでしょう。
【肉髻の根元に赤いボタン?】
大仏の肉髻の根元の前面に、赤色のボタンのようなものがついていることがあります。
肉髻珠とは、「仏の知恵の光明」を玉として表したものです。
また、知恵が固まり肉が盛り上がってできた肉髻の地肌の部分とも言われます。
ここまで豪快に飛び出した肉髻珠を見たのははじめて。 pic.twitter.com/ydjUEr320i
— 小野佳代 (@butsuzo_k) December 16, 2020
なんでも肉髻の地肌は頭の真ん中で、赤い色をして盛り上がっていたとか。
それを赤色の珠に置き換えて表現しているのです。
ちなみにこの肉髻珠からは、無数の仏の化身が出てくるとされています。
おでこのイボは実は「毛」です
大仏のおでこにはイボのような出っ張りがあります。
これは本来なら如来の特徴ですが、菩薩にも見られます。
白毫相:眉間に右巻きの白毛があり、明光を放つ。
これはデキモノではなく、白毫と呼ばれる「白い毛」です。
仏が人々に教えを解くときや救済するとき、この白い毛は真っ直ぐに伸びて光を発すると言われています。
しかも長さは伸びると伸びると五尺(約1.5m)、あるいは一尺五寸(約4.5m)のだたならぬ毛なのです。
手足にまさかの「水かき」がある
言われないと気づきませんが、実は如来像の手をよく見ると「水かき」があります。
手足縵網相:手足の指の間には、水鳥のような水かきがある。
これは指を広げるとあらわれ、閉じると見えないと言われています。
これは如来が誰一人漏らすことなく、人々を救うためのもの。
決して早く泳ぐためのものではありません。
耳の穴はピアスをつけてた証拠
大仏の耳にある穴は、何を隠そう「ピアス」の跡です。
八十種好の第三にあげられる耳輪垂成は次のような特徴。
仏の耳たぶは長く垂れ下がっている。
そして、耳たぶには穴が空いている。
そもそも釈迦の生まれは王族の王子。
かつては美しい衣装をまとい、豪華なアクセサリーを身につけていました。
しかし29歳の時に、豊かな暮らしと家族を捨てて出家します。
この時、耳につけていたピアスも捨てたけれど、悟った後にも穴は残っていたのです。
大仏を一目見た瞬間に思う、「大仏はパンチパーマ?」という疑問。
釈迦の強烈な天然パーマを表して螺髪だったのです。
螺髪は悟った如来にしか現れない、体の特徴の1つ。
もし天然パーマにコンプレックスをお持ちの方は、自信を持ちましょう。
あの目覚めた人、釈迦と同じ体の特徴を持っているなんてラッキーだと。