仏像の髪型の種類はざっくり5つに分けられます。
というのも、仏様の種類によって髪型がほぼ決まっているからです。
中には法則通りにいかない仏像もありますが、大まかな分類は以下の通りです。
髪型 | どんな髪型? | 仏の種類 |
1:螺髪 | パンチパーマ風 | 如来 |
2:宝髻 | お団子ヘア | 菩薩像 大日如来 天部 |
3:剃髪 | ツルツル丸坊主 | 地蔵菩薩 羅漢・高僧 |
4:総髪 弁髪 | 左側に髪を束ねる 三つ編み | 不動明王 |
5:焔髪 | サイア人風逆立てヘア | 明王 馬頭観音 天部 |
この記事では、仏像の個性豊かな5つの髪型について詳しく解説しています。
髪型の意味がわかれば、仏様の種類ががわかる理由にも納得!
ぜひ奥深い仏像の世界を堪能してください。
1.螺髪:仏像界で最も栄誉ある髪型
大仏を見た瞬間、誰もが思う「ひょっとしてパンチパーマ? 」という疑問。
多くの人にパンチパーマ と誤解されているであろう、「螺髪」の秘密に迫ります。
螺髪はパンチパーマにそっくり
大仏の頭はパンチパーマ ではありません。
このパンチパーマ のような頭のつぶつぶは、一本の長い毛が右巻きに巻いて固まったもの。
右巻きなのは、インドでは右を清潔、左を不潔とする考えからです。
実はこの螺髪、仏教の始祖である釈迦が悟りを得たときの髪型。
釈迦は強烈な天然パーマだったのです。
印象的すぎる髪型「螺髪」については、別記事でさらに詳しく解説しています。
大仏のパンチパーマな髪型の名前は(らほつ)!如来限定の悟りの証
螺髪の仏が意味することは何?
螺髪とは仏像の最高位である如来だけに許された髪型です。
如来:仏教のゴールである悟りの境地に達した人のこと
だから、螺髪の仏は間違いなく如来だと言い切れます。
しかし螺髪以外の仏様は、悟っていないということなのでしょうか?
実は仏の世界に、まさかの階級があるんです!
【驚き!仏の世界は仁義なき階級社会】
仏ならば誰もが悟ったお方のことと思いきや、それは大きな誤解です。
仏の世界は、信じがたいことに階級社会。
大きく分けると5つの階級に別れます。
また階級ごとに髪型がざっくり決まっているのです。
階級 | 仏の種類 | どんな仏様? | 髪型 |
1位 | 如来 | 悟りを得た存在 | 螺髪 |
2位 | 菩薩 | 悟りを求めて修行する存在 | 宝髻 剃髪 |
3位 | 明王 | 大日如来の化身 話を聞かない人を叱る | 焔髪 総髪・弁髪 |
4位 | 天部 | もとはインドのヒンドュー教の神様 | 宝髻 炎髪・怒髪 |
5位 | 羅漢 ・ 高僧 | 羅漢は釈迦の弟子のこと。 高僧は実在の修行僧のこと。 | 剃髪 |
例外もありますが、髪型で仏の種類がだいたいわかる仕組みなっています。
2.宝髻:オシャレな仏様の髪型
仏像のなかには、頭の上で髪を束ねたスタイルがあります。
髪型の名前に、宝という豪華な文字の入った「宝髻」。
実は、これには意味があるのです!
宝髻とはオシャレなお団子ヘア
宝髻とは、頭の上で髪を無造作にまとめたお団子ヘアのこと。
この髪型の特徴は、高く結んだり、お団子の先を分けたりとにかく華やか。
宝髻には次のような種類があります。
宝髻の種類 | どんな髪型? |
三山髻 | 1つのお団子ヘアをさらに3つに分ける |
五山髻 | 1つのお団子ヘアをさらに5つに分ける |
垂髻 | 1つのお団子ヘアを高くしたもの |
高垂髻 | 垂髻よりもさらに高いお団子ヘア |
ですがこの宝髻のアレンジは、たくさんのお団子を結ぶというテクニックもあるんです。
お団子の数は、1、2、5、6、8個まであり、バリエーションが豊富です。
お団子の数 | 呼び方 | どんなヘアスタイル? |
1 | 単髻 | 髪を頭の上で1つに結んだもの |
2 | 双髻 | 髪を頭の上で2つに結んだもの |
5 | 五髻 | 髪を5カ所で結んだもの |
6 | 六髻 | 髪を6カ所で結んだもの |
8 | 八髻 | 髪を8カ所で結んだもの |
アレンジが多いので、様々な仏様の髪型にもなっているのが特徴。
どんな仏様がしている髪型なのでしょうか?
宝髻の仏様は生まれが豪華
仏像といえば袈裟を着て、シンプルなファッションが基本です。
しかし宝髻の仏像は例外です。
そんなオシャレな宝髻スタイルの仏像は以下の3つです。
1:菩薩
2:大日如来
3:一部の天部
1つずつ解説します。
菩薩:王子様なんだから豪華は当然
菩薩とは、悟りを求めて修行する人をさします。
この菩薩のモデルは出家する前の釈迦の姿です。
豪華なアクセサリーに美しい衣装を着て、何不自由なく生活していたんです。
そんな釈迦のゴージャスな暮らしぶりを髪型でも表現しているというわけです。
大日如来:規格外のオシャレ如来
如来は悟りを得た時の釈迦がモデルです。
出家した僧の姿で表されるため、螺髪と簡素な服装が基本。
驚くこちに、菩薩と同じようにオシャレなアクセサリーをつけています。
大日如来:密教の世界で中心となる如来。宇宙の真理そのものを表わす。
※密教とは7世紀ごろにインドで生まれた仏教の流派の1つです。
要するに、大日如来は仏界の絶対王者。
あえて宝髻で華やかに表現されているのです。
【仏界の最高位「如来」は5種類もある!】
仏界の最高位の如来は、なんと5種類も存在します。
もちろん全て悟りを得た、仏界の最高位です。
どんな如来? | 髪型 | |
釈迦如来 | 苦悩から救ってくれる | 螺髪 |
薬師如来 | 病気を治してくれる | 螺髪 |
阿弥陀如来 | 極楽往生を助けてくれる | 螺髪 |
大日如来 | 宇宙の中心となる | 宝髻 |
毘盧遮那如来 | 宇宙の真理そのもの | 螺髪 |
大日如来以外は螺髪で質素な袈裟をまとっています。
天部は仏界のアイドルチーム
天部もとはヒンドュー教の神様や、各地の在来神が仏教界に転職したのが天部。
その数は約200種類もあり、バラエティ豊か。
仏にはめずらしく男女が存在し、しかも多国籍です。
女性の仏様は中国の貴婦人風、男性は中国の貴族が身につける礼服姿など。
また鎧姿、ショールをまとうなどいろいろ様々!
一部の華やか系ファッションの天部は、オシャレな宝髻スタイルで表現されます。
3:剃髪:煩悩を断ち切る丸坊主ヘア
仏像のなかには、髪の毛がない丸坊主ヘアのものがあります。
どうして全ての髪の毛をなくすヘアスタイルが生まれたのでしょうか?
剃髪:お坊さんに通じる丸坊主ヘア
剃髪とは、髪を全部(あるいは一部)剃り落とすことです。
要するに、剃髪とは現代のお坊さんにも共通する丸坊主ヘア。
剃髪は、釈迦が出家したときに髪を剃ったことに由来します。
お坊さんが丸坊主にするのは、仏門に入るときに少しでも釈迦に近づけるようにと願ってのこと。
仏教の最終目標は苦しみや煩悩から解放されることです。
放っておいても生えてくる髪の毛は、消しても消しても出てくる煩悩の象徴。
そこで剃髪をすることで、煩悩を打ち消そうという意味も込められていたのです。
剃髪はどんな仏様がしているの?
剃髪の仏様を見たら、「僧侶」だと思って間違いありません。
剃髪の仏様は2種類のみ。
1:地蔵菩薩
2:羅漢・高僧
1つずつ紹介しましょう。
1:地蔵菩薩 :僧侶の姿で人を救済する菩薩
地蔵菩薩とは、お地蔵さんのことです。
地蔵菩薩は菩薩といえども質素なお姿。
それもそのはず、この世の僧侶の姿をしているからです。
地蔵菩薩の役割は、苦しむ人々を救済すること。
これは釈迦が亡くなった後、弥勒菩薩が悟りを開いて人びの救済にあたるまでの期間です。
現在も地蔵菩薩は人々を救済する真っ只中。
とても辛抱強い仏様なのです。
2:羅漢・高僧:実在した優秀な修行僧
羅漢・高僧とは、実在した人間の修行僧
羅漢:釈迦の十大弟子で阿難、舎利弗など。
高僧:真言宗の開祖である弘法大使など
要するにみんなお坊さんだから丸坊主ということ。
【現代のお坊さんは丸坊主にしなくてもいい】
現代では、すべての僧侶が坊主頭にしているわけではありません。
浄土真宗のお坊さんは髪の毛を伸ばしているのが一般的です。
というのも、浄土真宗では「念仏を唱えさえすれば誰でも救われる」という教え。
開祖の親鸞は髪の毛を伸ばしていたと言われています。
だからあえて剃髪しなくてもいいのです。
4:総髪・弁髪:不動明王だけの限定髪型
常に起こった顔をして、だらしのない人間を叱りつける仏様もいます。
そんな仏様の髪型はどんなスタイルなのでしょうか?
総髪・弁髪は2つセットの髪型
総髪・弁髪は簡単に言うと顔の左側に編んだ三つ編みです。
細かく説明すると以下の通り。
総髪:全ての髪を左耳の前で束ねた髪型
弁髪:総髪の一部。垂らして三つ編みにした部分
総髪・弁髪は不動明王だけの限定ヘアスタイルです。
しかしこれは平安時代中期まで。
それ以降、時代が進むと直毛の総髪が巻き髪の沙髻・弁髪に代わります。
不動明王の髪型を見れば、作られた時代までわかる仕組みなのです。
不動明王とは一体どんな仏様なんでしょうか?
不動明王とは明王界のドン
不動明王は密教の絶対王者である大日如来の化身と言われています。
と言うのも、空海が密教とともに日本に伝えた仏様だからです。
仏教の教えに従わない者を力尽くでさとします。
迷いや苦しみといった煩悩を断ち切り、背中の炎で焼き尽くす役割があるのです。
5:焔髪:サイア人のような戦闘体制モード
強風を正面から受けたのかと思うような、髪が逆立っている仏像。
なぜに髪が逆立っているのでしょうか?
焔髪は髪型で怒りを表現している
焔髪とは、激しい怒りのため毛が逆立った状態のこと。
怒髪とも呼ばれます。
要するに、怒っている仏像に見られます。
この髪型の代表的な仏は以下の3つ。
1:明王(不動明王は除く)
2:馬頭観音
3:一部の天部
1つずつ解説します。
1:明王は煩悩だらけの人間を叱る仏様
明王とは、仏教の教えを無視する人を叱りつけてでもさとす仏
常に怒った顔をしていますが、ぼっチャリとした幼児体型!
ムチムチとした腕やお腹が丸いのも特徴です。
2:馬頭観音は煩悩を食べて浄化する仏様
馬頭観音とは頭の上に馬が乗っている観音菩薩。
優しい表情の像が多い菩薩の中で、例外的に怒った顔をしています。
その理由は、煩悩に怒りの表情で立ち向かっているからです。
馬が草を食べるように、煩悩を食いすくす役割がある仏様なのです。
3:天部:薬師如来を守る十二神将
200種類ほどあるバラエティ豊かな天部には、焔髪スタイルのものもあります。
その代表は薬師如来をお守りする十二神将です。
いわばガードマンなので、武装して常に怒った顔をしています。
お寺に行くと必ず出会う仏像。
実に様々な髪型をしているので、まるで法則などないかのようです。
しかし仏様の髪型には大まかなパターンがあり、何の仏様か読み解くことできます。
ぜひ仏像に出会ったら、仏の種類と髪型を照らし合わせて見てください。
面白い発見があるはずです。