ハリセンボンの針の数は、驚くことに350本前後です。
この針はウロコが変化したもので、普段は寝た状態。
しかし外敵に出会うと、約1秒という驚異のスピードで体を膨らませ、針を直立させます。
針が1000本ないのにハリセンボン。
昔の人はたくさんある様を1000と表現していたので、「トゲがたくさん=針千本」という具合に名前がついたようです。
嘘 | 本当 | |
---|---|---|
ハリセンボンの針の数 | 1000本 | 350本前後 |
この記事で紹介しているのは、名前負けしているハリセンボンの針や生態だけではありません。
魚のくせに泳ぎが下手すぎるハリセンボンの、悲しくも残念な運命についてもお伝えしています。
また、可愛らしく膨らんだハリセンボンの動画で、トゲトゲの心も癒されること間違いなし。
どうぞ最後までご覧ください。
ハリセンボンは350本の針で天敵知らず
ハリセンボンの針は約350本、多くても500本程度です。
普段のハリセンボンはほっそりしており、針も寝た状態。
しかし、外敵にあったり、うっかり釣り上げられたときは約1秒で体を膨らませます。
それは、体を大きく見せることで、外敵を驚かせるため。
そうすることで体を覆う厚い皮が張り、寝ていた針がピンと直立します。
この針には毒はないものの防衛力は驚異的!
その威力は、膨らんだハリセンボンを襲うと、飲み込んだほうが死ぬこともあるくらいなのです。
そんなハリセンボンですが、稀にマグロやサメなど大型の魚の胃袋から出てくることもあります。
よほど飢えていたのでしょうね。
ハリセンボンが体を膨らませる仕組み
ハリセンボンの針が直立するには、体を膨らませることが不可欠。
瞬時に体を膨らませるために、ハリセンボンは大量の海水を飲み込みます。
しかも、膨らんだ体はすぐには戻りません。
これには、驚きの秘密が!
ハリセンボンの胃には「膨張のう」という特殊な袋があります。
ここに海水を一気に入れたら、胃の出入り口にある筋肉を巾着のようにぎゅっと締めます。
体調が約20㎝のハリセンボンでも、飲み込む量は1ℓです。
ハリセンボンは体重の2~4倍もの海水を飲み込むことができます。
釣られて陸に打ち上げられたときは、海水ではなく空気を吸い込んで大きくなるんです。
元に戻るときは筋肉を緩め、海水や空気を体の外に出します。
泳ぎが下手なハリセンボンの3つの悲しい運命
ハリセンボンは350本の針のおかげて、襲ってくる天敵がいません。
怖いものなしの繁殖し放題にもかかわらず、その数が無制限に増えることがないのはなぜ?
その理由は、泳ぎが下手だから。
ハリセンボンは体をくねらせて泳ぐことはせず、ただヒレをパタパタを動かすだけ。
早く泳げません。
このことが何不自由なく幸せなはずのハリセンボンの運命を大きく狂わせてしまいます。
悲しい彼らの結末は、大きく分けて3つ。
1:極寒の海に流され打ち上げられる
2:死んでまでも提灯にされてしまう
3:幸せの真っ只中で「おばぁ」に食われる
ハリセンボンの3つの悲しい運命を1つずつご紹介します。
1:極寒の海に流され打ち上げられる
ハリセンボンは全世界の温帯〜熱帯に広く分布しており、特に西日本〜西南西諸島に多くいます。
暖かい海で生活しているハリセンボンは、泳ぎが下手なのもあり暖流に乗って北上します。
すると気が付いた時には、冷たい海に出てしまい寒さで死んでしまうのです。
日本海と佐渡ヶ島です😄
今日はよく見える方だ😁
砂浜に何か落ちていたよ
ハリセンボンかな?🐡 pic.twitter.com/CYV4xDoS4h— わっくん (@wakdonaldo) March 7, 2021
だから本州の海岸には、ハリセンボンが大量に打ち上げられることがあります。
泳ぎが下手ゆえの悲しい運命なのです。
2:死んでまでも提灯にされてしまう
冷たい北の海に打ち上げられたハリセンボンは、その後どうなるか?
ときには大量のハリセンボンが海岸に打ち上げられニュースになります。
そんな悲しいハリセンボンの最後を無駄にしないよう、人々は考えました。
山陰地方などでは、打ち上げられたハリセンボンの皮を剥いで提灯にします。
それを魔除けとして玄関に吊るすのです。
日本のあちこちでハリセンボンの提灯を魔除け厄除けとして飾る風習がありまして、
ほらほらにも魔除け厄除けに自作のハリセンボンたちがいっぱいo(^o^)o
もっと強く念じて疫病退散させたいものです
(・ω・)ノ#ほらほら #疫病退散 #厄除け #魔除け #ハリセンボン #フグ提灯 #信じるものは救われる pic.twitter.com/ttQWCIdtHn— 京都たかばし 漁港直送 居酒屋 ほらほら (@horahora2013) May 4, 2020
ハリセンボンの皮は厚くて弾力もあるから、提灯にするのにもってこい。
その針をむき出しにしたトゲトゲの見た目で、どんな魔も追っ払ってくれそうです。
3:幸せの真っ只中で「おばぁ」に食われる
一瞬で全身をトゲのボールにする必殺技で、外敵はいないハリセンボン。
しかしあまりに泳ぎが下手なので、海の中でも人が簡単に素手で捕まえられるほど。
そんなハリセンボンにとって、もっとも恐ろしいのは沖縄の「おばぁ」です。
沖縄ではハリセンボンの皮を剥ぎ、肝と身を一緒に煮込んで「アバサー汁」として食べます。
アバサー汁 pic.twitter.com/O27jst41wI
— 竜ちゃん(魚垢) (@sakana_fish0928) July 20, 2020
フグ科のハリセンボンですが毒がないため、沖縄では古くから家庭でも食べられています。
肝の濃厚な旨味とプリプリした身の食感はそれはもう絶品です。
どのみち寒い海に流され死んでしまうハリセンボンですが、幸せの真っ只中で「おばぁ」に食われる運命。
沖縄近海で獲れたハリセンボンは無毒ですが、台湾近海のものには毒があるものも見つかっています。
くれぐれも海外のハリセンボンにはご注意ください。
【沖縄方言のアバサーに隠されたトリビア】
「アバサー」は沖縄の方言で、「ハリセンボン」以外にもう1つ意味があります。
それは「うるさい女の人」です。
陸に打ち上げられたハリセンボンが、口をパクパクさせてうるさくて鳴くことが由来しています。
ハリセンボンの「ヘェ〜」なトリビア3つ
針が1000本ないだけでも、ツッコミどころ満載のハリセンボン。
多くの人が誤解していたり、知らない事実がまだまだあります。
そんなハリセンボンにまつわる「ヘェ〜」なトリビアを3つご紹介します。
1:嘘ついたら“はりせんぼん”は針千本
2:英語名は3万本も針をもつあの動物
3:学名は見た目そのまんまだった
どこまでも奥深いハリセンボンの世界をお楽しみください。
1:嘘ついたら“はりせんぼん”は針千本
指切りげんまん、嘘ついたら“はりせんぼん”飲ます。
このフレーズを聞いて、この“はりせんぼん”は魚のハリセンボンか?
そう思う人もいるかもしれませんが、これは「針千本」です。
魚ではなくお裁縫の針からきています。
江戸時代の吉原の遊女が意中の相手に「不変の愛」を誓うため、小指を切って渡していたことが「指切」の始まり。
しかし、あまりに痛いので実際に小指を切る遊女は少なく、模造品が出回ったそうです。
この「指切」が一般庶民にも広まり、約束を必ず守る意味に変わっていきました。
これに握りこぶしで1万回殴るという意味」の「拳万(げんまん)」が後から付け加わりました。
さらには「針千本飲ませる」も加わり、約束を守らないとひどい目に合わせますよと歌うようになったのです。
魚のハリセンボンでもビビりますけど、ここはお裁縫の針千本でした。
2:英語名は3万本も針をもつあの動物
ハリセンボンの英語名は、「Porcupinefish」です。
Porcupineの意味は、全身にトゲを持つ動物のヤマアラシのこと。
このトゲだらけのヤマアラシの針の数は、なんと3万本以上です。
外敵に出会うと背中の針を逆立てて、後ろ向きに突進します。
そして尾についた針で敵を攻撃するという、勇猛果敢な動物なのです。
ヤマアラシの針はゴム長靴を簡単に突き抜けるほどに尖っています。
うっかり食べようものなら、口や内臓を針で突き破り死んでしまうほど。
だから熊やトラでさえも、ヤマアラシを襲うことは滅多にありません。
天敵がいないという点では、ハリセンボンと同じ。
しかし英語名になってまでも、針の数では名前負けしているハリセンボンなのです。
3:学名は見た目そのまんまだった
私たちがハリセンボンと呼ぶ魚の学名はDiodon holocanthusです。
細かく見ると、このようなラテン語の意味を持っています。
Di =二枚の
odon=歯
holo=全体に
canthus=トゲ
つまりは二枚の歯を持つ全体がトゲトゲの魚という意味です。
見た目に可愛らしいハリセンボンですが、実は肉食。
上下に1本ずつオウムの口ばしのような歯を持ち、貝類、甲殻類、ウニなどをバリバリと食べてしまいます。
通常のフグ目の魚は、上下に2本ずつ合計4本の歯があります。
しかし、ハリセンボン科の魚の歯は、上下に1本ずつ、合計2本と数が少ないのが特徴。
だから学名にまでその特徴が入ったというわけです。
【ハリセンボンの豆知識】
ハリセンボンはフグ目ハリセンボン科に分類される、約20種類ほどの魚の総称です。
ハリセンボン科にはハリセンボン以外に、ヒトズラハリセンボン、イシガキフグ、ネズミフグなどがいます。
その1種である学名「Diodon holocanthus」 のことを、私達はハリセンボンと呼んでいます。
沖縄の海に潜ると必ず遭遇するハリセンボン。
膨らんでトゲをむき出しにした姿は、怖いというよりむしろ愛らしく癒されるほどです。
そんなハリセンボンのうんちくを調子に乗って話したら、おばぁから「アバサーねぇ」と突っ込まれるやもしれません。
くれぐれもご注意ください。