カマキリは蛹(さなぎ)になりません。
卵からかえったカマキリの幼虫は、ただ脱皮を繰り返して成虫になります。
脱皮の回数は種類によって異なり、5〜8回ほど。
それは昆虫が地球に誕生した4億年8000年前から、現代にいたるまでの「進化」に秘密がありました。
この記事ではカマキリが蛹にならない理由を、気の遠くなるような昆虫の歴史から紐解いています。
意外な生き物から進化した昆虫たちが、今や地球で最も繁栄しているという驚愕の事実も!
ぜひ最後までご覧ください。
カマキリはさなぎにならずに成虫になる
カマキリは、卵からかえると5〜8回の脱皮を繰り返して成虫になります。
生まれたてのカマキリは、幼虫であっても見た目はすでにカマキリ。
小さいながらも立派なカマを持っています。
成虫と幼虫の唯一の違いは、翅(はね)です。
カマキリの幼虫が脱皮を繰り返していくと、翅のもととなる翅芽(しが)が出てきます。
そして最後の脱皮を終えたとき、立派な翅を持った成虫になるのです。
蛹にならずに成虫になる昆虫は、カマキリ以外にセミ、トンボ、バッタなどがいます。
どうして蛹になる昆虫とならない昆虫がいるのでしょうか??
カマキリのさなぎになれない生い立ち
カマキリが蛹にならない理由は、昆虫の進化に原因があります。
昆虫が地球に誕生したのは、4億8000万年前。
元々は海に住んでいたエビやカニといった甲殻類が、陸に上がり進化したのが昆虫です。
陸は海よりも気候の変化が激しく、昆虫の中には絶滅したものも多くいます。
また生き延びた昆虫は、進化することで種類や数を増やしながら命を繋いできました。
ちなみに人間が誕生したのが700万年前。とても比べ物になりませんね。
カマキリの先祖は4億年前に地球に誕生しました。
実は、カマキリは昆虫の中でも古かぶです。
チョウのような蛹になる昆虫の先祖が誕生する、5000年も前から存在していました。
ここにカマキリが蛹にならない理由があります。
要するに、カマキリはチョウやカブトムシよりもずっと古いタイプの昆虫だから、「蛹」になる術を持っていなかったのです。
昆虫は一体どのように進化していったのでしょうか?
4億8000万年の昆虫の進化は「翅」にある
海から陸に上がったことで、昆虫は厳しい環境にさらされました。
生き伸びるために、まさに進化せざるを得ない状況。
昆虫たちは子孫を効率的に残すために、何をしたのか?
それは「翅(はね)」を持つことでした。
翅を獲得するための進化が「変態」
全ての昆虫の使命はただ1つ。
子孫を残すためには、オスとメスが出会わなければ始まりません。
小さな昆虫が相手を見つけるのに、歩いていては効率が悪すぎて死活問題に!
そこで昆虫は徐々に肢や背中の一部を翅へと変化させていったのです。
面白いことに現代の昆虫たちでさえも、幼虫には翅がありません。
どの幼虫も餌を食べて、脱皮を繰り返して大きくなります。
しかし、幼虫から成虫になるときが運命の分かれ目。
幼虫が翅をもつ成虫に変身することを「変態」といいます。
変態には無変態、不完全変態、完全変態の3種類があり、いずれかの方法で昆虫は幼虫から成虫になるのです。
無変態 | 最後の脱皮をしても翅がない成虫になる | シミ・イシノミ |
不完全変態 | 最後の脱皮をすると翅がある成虫になる | カマキリ・バッタ・コオロギ |
完全変態 | 最後の脱皮後にさなぎになり翅がある成虫になる | チョウ・ハチ・カブトムシ |
無変態の昆虫には、翅がありません。
しかし、蛹にならない不完全変態と蛹になる完全変態の昆虫には翅があります。
これは一体どうしてでしょうか?
参考論文:町田龍一郎・真下雄太「昆虫類の翅の起源を発生学的に解明ー翅の起源に関わる側板は肢の付け根に由来するー」
完全変態が導いた昆虫の勝利とは?
海から陸にあがった昆虫の祖先には、翅がありませんでした。
しかし厳しい環境下で生き抜くために、徐々に体の一部を翅に進化させたのです。
その証拠に昆虫たちは、無変態→不完全変態→完全変態の順に地球上に誕生してます。
この変態こそが、昆虫に地球上での成功を導いたのです。
無変態と不完全変態の昆虫は、幼虫と成虫の形がほぼ同じです。
食べ物だって、幼虫と成虫でそう変わりません。
でも完全変態をするチョウやカブトムシは、幼虫と成虫の形が全く違います。
青虫が、蛹になると美しい翅を持ったチョウに変わるのは良い例です。
似ても似つかぬ魔法のような大変身をします。
これは単に飛べるようになったという話ではありません。
完全変態で幼虫と成虫の姿がまるきり変われば、食べ物も住む場所も変わります。
その結果、幼虫は成長に有利な場所に暮らし、成虫は繁殖しやすい場所に暮らせるようになったのです。
このおかげで昆虫は今や地球上で最も繁栄している生き物になりました。
その種類は名前がついているだけで100万種。
しかし実際には毎年2000種類以上の新種が発見されており、実際には300万〜500万種はいると考えられています。
今や全生物の60%以上を占める生き物、それが昆虫なのです。
参考論文:町田龍一郎・吉澤和徳・内船俊樹・福井眞生子「ゲノム情報で昆虫の高次系統関係と分岐年代を解明」
カマキリが蛹にならない理由を紐解いたら、昆虫の起源や進化にたどり着きました。
絶滅の危機を何度も乗り越え、現在まで命を繋いだ昆虫は奇跡の生き物です。
そんな繁殖力旺盛な昆虫が、現代では食糧危機を救う人類の食べ物として注目を浴びています。
実は日本では昔から、昆虫を食べる習慣がありました。
コオロギ、イナゴ、タガメ、カイコ、蜂の子など種類も豊富です。
昆虫はもともとはエビやカニの子孫なので、味もどことなく似ていて美味しいらしい。
食べるのに勇気がいる昆虫ですが、この歴史を知ればちょっと食べてみようかと思えてきます。
これこそが人類の進化かも知れませんね。