鬼の始祖・鬼舞辻無惨に一家惨殺され、こともあろうか鬼にされた襧豆子。
そんな襧豆子のトレードマークは口に竹を咥えていること。
竹を咥えている理由は、「襧豆子が人を襲わないように」と水柱の冨岡義勇がつけたからです。
しかしそれだけではありません。
実は、襧豆子が口に咥えている竹とは、鬼を象徴するアイテムだったのです。
この記事では襧豆子の「竹」がなぜ竹を咥えているかの理由を日本神話の古事記をもとに解説します。
また「竹」が外れることで、人間に近づく襧豆子についても紹介しましょう。
襧豆子に竹を咥えさせたのは水柱・冨岡義勇
鬼と化した襧豆子に竹を咥えさせたのは、鬼の襲来を聞きつけやってきた水柱・冨岡義勇です。
鬼殺隊なら鬼は問答無用で殺すのが道理。
しかし怪我をして飢餓状態であるにも関わらず、兄を食べずに守ろうとする襧豆子に冨岡は何か違うものを感じます。
鬼滅の刃1巻©吾峠呼世晴/集英社 より引用
襧豆子と炭治郎を峰打ちし気を失わせた間に、冨岡は襧豆子の口に人を食わないように竹を噛ませました。
しかし炭治郎と冨岡が遭遇した場所は雑木林。
どこにも竹が見当たらないのに、杉でもなくヒノキでもなく襧豆子は竹を口に咥えています。
鬼滅の刃1巻©吾峠呼世晴/集英社 より引用
なぜ襧豆子が咥えさせられたのが竹だったのか?
その答えは、襧豆子が鬼の愈史郎と出会った時に言われた一言「醜女」で明らかになります。
襧豆子が竹を咥えているのは古事記の「醜女」が由来
襧豆子が初めて愈史郎に出会ったときのことです。
「鬼じゃないかその女は。しかも醜女だ。」
醜女とは読んで字のごとく「醜い女=ブス」のこと。
村でも美人で評判だった襧豆子をブス呼ばわれされ、炭治郎は愈史郎に「そんなはずない」と食い下がります。
鬼滅の刃2巻©吾峠呼世晴/集英社 より引用
実はこのとき、愈史郎は襧豆子をブスという意味で「醜女」と言ったのではありません。
醜女にはもう一つ意味があります。
それは「黄泉の国に住む女の鬼」という意味です。
「醜女」という言葉が最初に記された日本最古の書物「古事記」にその答えがあります。
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愈史郎が襧豆子を「醜女」といった本当の理由をこちらの記事で詳しく解説しています。
古事記に登場する「醜女」を徹底解説
「古事記」とは、7世紀後半から8世紀にかけて書かれた日本で最も古いの歴史書です。
驚くことにその内容は、日本という国が神様によって作られる神話から始まります。
実は、「鬼滅の刃」はこの「古事記」の日本神話に多大な影響を受けて作られた作品。
そんな「古事記」に、黄泉の国に住むという恐ろしい女の鬼「予母都志許売(=醜女)」が登場します。
醜女が一体どんな鬼なのか、わかりやすく解説しましょう。
夫婦の神様によって日本誕生!
昔々、イザナギ(伊邪那岐)とイザナミ(伊邪那美)という、夫婦の神様がおりました。
イザナギは男の神様で夫、イザナミは女の神様で妻です。
2人は力を合わせて、日本という国を生みだし、たくさんの神様も生み出しました。
そんな仲の良い夫婦に思いもかけない不幸が襲います。
妻のイザナミは火の神である「火之迦具土神」を出産するとき大火傷を負います。
なんとこの火傷が原因で、イザナミは死んでしまいました。
愛する妻を追って黄泉の国へ
愛する妻と死に別れた夫のイザナギは悲しみに暮れます。
そこで愛する妻がいる黄泉の国へ行くことにしました。
黄泉の国とは、すなわち死者の世界のこと。
イザナギは真っ暗闇の黄泉の国で、愛する妻・イザナミを見つけて連れて帰ろうとします。
しかし、イザナミはすでに黄泉の国の食べ物を食べたので戻れません。
イザナミは黄泉の国の神様に帰れるようにお願いするので、イザナギに待つように言います。
でも1つの条件がありました。
「待っている間、決して私を見ないでください。」
イザナミは暗闇の中で、イザナギにそう約束させたのでした。
見ないでと言われると見たくなっちゃう
「見ないでください」と言われると、余計に見たくなる見たくなる。
イザナミを待ちきれなくなったイザナギは、自分の頭につけていた櫛の歯を折って火をつけてしまいます。
そこでイザナギは変わり果てたイザナミを見て驚きます。
イザナミの体は腐ってウジ虫にまみれ、さらには雷神がなり出ている恐ろしく醜い姿だったからです。
「み〜た〜な〜!!(怒)」
見るなとあれほど言ったのに、見られたくない醜い姿を見られたイザナミは激怒します。
夫のイザナギも謝ればいいのに、怖くなって逃げ出してしまいました。
妻がよこした本気の刺客「醜女」
約束を破って逃げ出した夫を許すものか!!
イザナミは予母都志許売(=醜女)という、黄泉の国の恐ろしい女の鬼にイザナギを追わせます。
醜女はすごく足が速い鬼なので、あっという間にイザナギを追いつきました。
捕まりそうになったイザナギは、髪に巻きつけていた黒御縵という蔓草を投げます。
すると蔓が勢いよく茂り、美味しそうなブドウがあちこちに実りました。
実は醜女は大の食いしん坊。
追いかけることを忘れて、醜女はむしゃむしゃとブドウを食べはじめました。
その間に、イザナギは全力で走って逃げます。
しかしブドウを食い尽くした醜女は、我に返って猛ダッシュ!
またもやあっという間にイザナギを追い詰めました。
絶体絶命のイザナギは、とっさに髪の刺してあった櫛を投げます。
すると辺り一面にボコボコとタケノコが生えてきました。
タケノコに目がない醜女は、またもや夢中になって食べ始めます。
イザナギは醜女がタケノコに食らいついている間に、さらに逃走し醜女を振り切ったのです。
襧豆子と「古事記」の醜女は共通点だらけ
襧豆子が口に咥えているのは、なぜ竹だったのか?
それは襧豆子は古事記の「醜女」をヒントに生まれたキャラクターだからです。
その証拠に、襧豆子と「醜女」には次の共通点があります。
・襧豆子も醜女も女の鬼
・口に竹を咥えている
・足がむちゃくちゃ速い
1つずつ解説しましょう。
襧豆子も醜女も女の鬼
鬼滅の刃1巻©吾峠呼世晴/集英社 より引用
襧豆子は兄・炭治郎が町に炭を売りに行っている間に、家族を惨殺されたうえ、自身は鬼にされました。
襧豆子を鬼にしたのは、鬼の始祖・鬼舞辻無惨です。
鬼舞辻無惨は自分の血を分けることで鬼を増やすことができる唯一の鬼。
襧豆子は鬼舞辻無惨の血を傷口から浴びたために鬼になりました。
一方、古事記に登場する「醜女」とは、「黄泉の国に住む恐ろしい女の鬼」のことです。
襧豆子も醜女も女の鬼という点で共通しています。
口に竹を咥えている
鬼滅の刃3巻©吾峠呼世晴/集英社 より引用
襧豆子が口に竹を咥えているのは、冨岡義勇の計らいです。
鬼になると人の血肉を喰らうので、人を襲わないように咥えさせたのです。
一方、古事記の「醜女」はイザナギがばらまいたタケノコを食べています。
ぐんぐん生えるタケノコにかぶりついた醜女は、さながら竹を咥えたように見えるはず。
襧豆子は竹を、醜女はぐんぐん生えてくるタケノコを口に咥えている点で共通しています。
足がむちゃくちゃ速い
鬼滅の刃22巻©吾峠呼世晴/集英社 より引用
襧豆子が本気で走ると、元水柱・鱗滝左近次でも追いつけないほどに足が速いです。
ものすごい高さの断崖絶壁もひとっ飛びで降りる身体能力を持っています。
一方、古事記の醜女も俊足で有名です。
あのイザナギにかなりのハンディを与えながらも、2回も追い詰めることに成功。
襧豆子も古事記の醜女も足がむちゃくちゃ速いという点で共通しています。
襧豆子のトレードマークの竹が外れる
襧豆子はあることをきっかけに、二度と竹を口にしていません。
それは襧豆子が太陽の光を克服した時のことです。
刀鍛冶の里での戦いで、炭治郎と襧豆子は逃げる上弦の肆・半天狗を追います。
しかし、あともう一歩というところで、夜が明けて朝日が登り始めてしまいました。
襧豆子が自らの意思で太陽に焼かれる
鬼滅の刃15巻©吾峠呼世晴/集英社 より引用
鬼にとって太陽光は命を奪う凶器。襧豆子の体は音を立てて燃え始めました。
炭治郎は登ってくる太陽から襧豆子を体で守るの必死です。
逃げていく上弦の肆・半天狗をどうすることもできません。
このままでは半天狗は里の人を食らった挙句に逃走してしまう。
その時です、襧豆子は自分をかばう兄・炭治郎を蹴飛ばしました。
鬼滅の刃15巻©吾峠呼世晴/集英社 より引用
それは襧豆子が自分の命を差し出したことを意味する行為。
襧豆子は炭治郎に日陰に逃げた半天狗を滅し、里の人の命を守るようにたくしたのです。
登ってきた太陽は襧豆子を容赦無く焼きつくします。
熱くて、痛くて、苦しいはずの襧豆子のその顔は笑顔でした。
鬼滅の刃15巻©吾峠呼世晴/集英社 より引用
里の人の命を守るため、襧豆子は喜んで自分の命を捧げたのです。
炭治郎は泣きながら半天狗の首を切り落とし、里の人の命も救いました。
しかしその代償は炭治郎にとって大きすぎました。
この世でたった一人の、大切な妹・襧豆子の命と引き換えだったからです。
炭治郎が落胆し涙き崩れたその時、信じられない光景を目にします。
想定外!襧豆子が太陽を克服する
鬼滅の刃15巻©吾峠呼世晴/集英社 より引用
それは炭治郎にとって、目を疑うような光景でした。
骨まで焼き尽くされたと思っていた襧豆子が、太陽の下に立っていたのです。
しかも口に竹を咥えておらず、話すこともできるようになっていました。
鬼滅の刃15巻©吾峠呼世晴/集英社 より引用
たどだどしく話す襧豆子の口には鬼の象徴でもある牙があり、目の色も赤く爪ものびたままです。
人間に戻ったわけではないけれど、今までの襧豆子ではなくなった。
それは今までに鬼が誰もなし得なかった、太陽を克服するという奇跡を遂げた瞬間だったのです。
まさか!襧豆子が鬼から人間に戻る
襧豆子は鬼になったにもかかわらず、人を食べることなく2年以上の歳月を生きています。
鬼の食料は人間の血肉のみですが、襧豆子は代わりに眠ることで体力の回復をしていました。
また鬼としての戦闘能力も爆発的に成長するという、信じがたい変化を次々に起こしています。
これは襧豆子の体の細胞がどんどん変化した結果。
襧豆子の血液を定期的に採取して研究していた、鬼で医師でもある珠世は予想をしていました。
襧豆子はいつか太陽を克服するだろうと。
鬼滅の刃15巻©吾峠呼世晴/集英社 より引用
襧豆子の太陽を克服した能力は、鬼にとっては喉から手が出るほど欲しいもの。
この世に鬼が誕生して1000年以上、鬼舞辻無惨でさえもなし得なかった偉業なのです。
そうなると太陽光を克服するために、鬼舞辻が襧豆子を体に取り込もうと襲ってくるのは時間の問題。
なんとか鬼舞辻無惨から襧豆子を守らねければならない。
そんな中、襧豆子の血液を研究してきた珠世が、ついに「鬼が人間に戻る薬」を完成させます。
襧豆子が人間に戻れば兄・炭治郎の願いが叶うと同時に、鬼舞辻が太陽光を克服するのを阻止できるからです。
鬼滅の刃17巻©吾峠呼世晴/集英社 より引用
「鬼が人間に戻る薬」を飲んだ襧豆子は、苦しみながらも体の変化に耐えます。
すると、今まで曖昧だった過去の記憶が次々と蘇りはじめたのです。
大好きだった家族が鬼舞辻無惨に殺されたこと
今までに出会い、共に戦った仲間のこと
「兄ちゃんが守る 何があったもお前だけは」と言ってくれた兄の炭治郎のことを
週刊少年ジャンプ2020年14号 鬼滅の刃 第196話©吾峠呼世晴/集英社 より引用
襧豆子は人間だった記憶と鬼になってからの経験までも、完全に理解できる状態になったのです。
それはまるで記憶と経験というパズル頭の中でが当てはまっていくようでした。
そしてついに、襧豆子は完全に鬼から人間に戻ったのです。
口の牙も、目の色も、伸びていた爪も、すべて人間の時の襧豆子に元どおりなりました。
襧豆子の竹が象徴する真の意味
鬼である襧豆子が口に咥えている竹。
この竹は単に人を襲わないようにするためのものではありません。
襧豆子が竹を咥えているのは、古事記に出てくる女の鬼「醜女」に由来しています。
「醜女」とは黄泉の国に住むという女の鬼。
大好物のタケノコを食べている間にイザナギを取り逃がすというエピソードがあります。
実は、「竹」とは古事記の醜女にかけた、襧豆子が「鬼」から「人間」に戻るまでの変化を象徴するアイテムだったのです。
竹は襧豆子が鬼であることの象徴
鬼滅の刃1巻©吾峠呼世晴/集英社 より引用
襧豆子は鬼の始祖・鬼舞辻無惨によって鬼にされました。
鬼になってすぐの襧豆子は、兄の炭治郎にも食いかかり、理性も全く失った状態。
まさに古事記に出てくる醜女ような、恐ろしい女の鬼と化しました。
そこに遭遇した水柱・冨岡義勇は、最初は襧豆子の首をはねようとしました。
しかし襧豆子が兄の炭治郎を食べるどころか、冨岡から守ろうとする姿に何かを感じます。
鬼滅の刃2巻©吾峠呼世晴/集英社 より引用
冨岡は自分の責任と判断で、襧豆子を生かすと決めました。
しかし、万が一でも人を襲わないようにと、冨岡は襧豆子の口に竹を咥えさせたのです。
このように口に咥えた「竹」は襧豆子が鬼であることを象徴しています。
襧豆子の竹が外れたのは人間に近づいた証
鬼滅の刃15巻©吾峠呼世晴/集英社 より引用
炭治郎と襧豆子が、刀鍛治の里での戦いで逃げる上弦の肆・半天狗を追いました。
日陰に逃げ込んだ半天狗が、里の人を食べようと襲ったまさにその時。
無情にも朝日が昇り始め、炭治郎の目の前で襧豆子の体が燃えだします。
襧豆子に覆いかぶさって朝日から守る炭治郎は、里の人を助けに行くことができません。
そんな炭治郎を襧豆子は自ら蹴飛ばし、里の人を助けるよう笑顔で送り出します。
襧豆子の自分の命を省みずに、里の人を助けるという究極の愛の行為。
この直後に襧豆子は太陽光を克服しました。
鬼滅の刃15巻©吾峠呼世晴/集英社 より引用
太陽光を克服して以来、襧豆子は竹を口にしていません。
これは太陽光を克服したことが、鬼としてさらに進化したよりも、より人間に近づいたことを意味しています。
里の人を助けるために自分の命を投げ出すことなど、鬼には絶対にできないからです。
襧豆子が口に咥えていた「竹」とは「鬼」の象徴。
だからこそ、鬼にはない「究極の愛」の行為の後、襧豆子は竹を口にしなくなったのです。
その後、襧豆子は珠世の作った「鬼を人間にする薬」で完全な人間に戻ります。
この襧豆子が人間に戻るまでの変化を「竹」を使って見事に表現されていたというわけだったのです。
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